社会福祉法⼈ 幸仁会「川本園」
利用者一人ひとりの能力を活かすものづくり
社会福祉法⼈ 幸仁会「川本園」は、就労継続支援B型事業を手掛ける社会福祉法人です。高い技術力のある木工作業所として知られ、さまざまな障害を持った利用者のみなさんに「森のしごと」を提供しています。この施設で、原木から製材、設計、加工、仕上げまですべての作業が可能だそうで、少量生産からある程度の規模まで、「川本園さんなら何でも作れる」と評判の作業所です。
「木工の工程は、加工から仕上げまで多くの段階があって、小さな仕事を多種にわたって作ることができます。利用者さんそれぞれの個性に合った作業を見つけることができるんです」
そう話すのは職員の野辺 香織さん。利用者のみなさんそれぞれの「得意」を活かしながら、少しでも高い工賃を得られるよう、これまで工夫を重ねて来ました。
理事長の田中 初男さんは、「技術を高め、設備投資もしながら、いろいろな課題を越えて、ようやくここまで来られた。今では官公庁を中心に多様な依頼をいただくようになり、設備や工程によって異なる仕事のつくり方についても知識と経験が貯まってきました。今後は、この知見を、他の木工施設への技術指導に役立てたいと考えています」と、力強く語ります。
埼玉県内の認証林から原木を直接仕入れていて、高い加工技術と、しっかりした生産管理体制があり、社会的弱者の就労を支援、SDGsの理念にも沿う。なるほど、行政など公的な機関が川本園を頼りにする理由がわかります。
川本園 ✕(株)パワープレイス✕ NPO木育・木づかいネット
作りやすさと、ニュアンスのあるデザインのあいだで
「私たちの技術力が評価されてきたことを実感する一方で、社会的には福祉作業所として、価格の安さを期待されることも多い。利用者さんが誇りをもって仕事をしていただくためには、官公庁や企業に向けた価格の安いものだけでなく、一般消費者にも「欲しい」と思っていただけるような付加価値の高い商品の開発が必要です」
そうした田中理事長の想いに触れ、林野庁の助成を受けて商品開発プロジェクトを立ち上げたのが、NPO法人の木育・木づかいネットです。木製品・家具などのデザインに定評がある(株)パワープレイスに応援を依頼し、付加価値の高い商品の開発を目指して、模索が始まりました。
目指したのは、みんなが欲しくなるような「良いものをつくる」こと。そしてそれを利用者みなさんの仕事として、安全に、やりがいを持ち、生き生きとはたらくことのできる環境をつくること。地域材の良さを生かした製品の仕上がりも追求しながら、機械、工具の工夫や工程の設計など、デザインを実現するための小さな、でもとても大切な問題を一つ一つ話し合い、解決していきました。
(左の写真)デザイナーの意向をくみながら、利用者の立場にたち、それぞれの能力を活かして安全に作業できるようにと、頭をひねる川本園の小河原弘之さん(左)と、神塚清(右)さん
(右の写真)技術的な制約がある中で、諦めず良いデザインを探し続けたパワープレイスの奥ひろ子さんと(左)、その熱意に応えようと悩む川本園の野辺香織さん。
手の中に森が香る、「森tebaco」シリーズ試作品が完成
川本園の要望に応え、極力パーツ数を減らしたシンプルな形は、そのまま木の良さを伝える、新しいデザインの誕生へとつながりました。コロナ禍の折、なかなか対面で集まることがかなわなかったもどかしい8カ月の間、3度の試作を経てようやく姿を現した、香り高い小さな箱たち。程よく手に収まり、いつまでもさわさわとなでていたくなる手触りのよさも魅力です。
開発に関わったメンバーからも「すてき!」「これは欲しい!」「プレゼントにしたい!」などの声があがりました。高い技術力を誇る川本園だからこそ完成させることのできたデザインです。
これを量産し、一般消費者のもとへお届けするには、まだ越えなければならない課題を残します。でもようやく誕生したこのシリーズを、私たちは、むかしから身近において大切なものを入れたという「玉手箱」をイメージして、「森tebaco」と呼ぶことにしました。
埼玉中央部森林組合
埼玉の森から伐りだしたひのきが、直接「川本園」に届く
森tebaco は、埼玉は比企郡の森から伐り出されたひのき材でできています。その森を管理するのは埼玉中央部森林組合のみなさん。県内の森林環境の保全と木材の消費拡大、持続可能な森林経営の促進(SGEC認証)を目指して発足しました。埼玉県のほぼ中央、「武蔵の小京都」とも呼ばれ、美しい景観で知られる小川町にあります。
組合事務所の裏手は土場になっていて、森tebacoの製作を手掛ける川本園などに送られる材が積まれていました。森tebaco のような小物に使われるのは根本に近い部分、建材を取りにくい部位が活用されます。
これらの材が伐り出される森は、森林組合の事務所からさらに車で40分ほど離れた山間部にありました。これほど広大なエリアが皆伐されているのは、山火事の後だからだそうで、旺盛に繁茂する雑木・雑草の間に黒く炭化した切り株がたくさん残っていました。伐採現場は焼けたその被災エリアの奥の奥。そこからまた広大な森林が続きます。埼玉の街を見守るように、災害の後にも力強くいのちを育む豊かな森が、森tebacoのふるさとです。
伐採現場を案内してくれた森林組合の畑俊充さん(左)と、伐採作業にあたる出井玄行さん
少しでもやさしい未来へ、みんなで。
「森tebaco」は、林野庁の助成を受け、NPO法人木育・木づかいネットを中心としたチームで進める林福連携プロジェクトから誕生しました。
- 「森のめぐみを活かして、しごとをつくること」
- 「魅力ある地域材製品の新たなデザインを創出すること」
- 「障害者にとって魅力ある職場をつくること」
を初年度のテーマに設定して走り始めた3カ年のプロジェクトです。このレポートに登場した人たちの他にも、社会福祉協議会、地方大学、販路のアドバイザー企業、ウェブ制作会社など、多種多様なセクターが参画し、みんなで、このソーシャルプロダクトを産み育て、社会に届けようとしています。
川本園の田中理事長はこの1年の成果についてこう語ります。
「この事業で得た一番の成果は、関わってくれた利用者たちの変化です。試作を始める段階では、"できない理由”を訴えていたのが、1年間やっていく中で、"どうやったらできるか”を一生懸命考えるようになった。"できない”苦労も、一生懸命やって、いろいろな人に助けてもらえば乗り越えられる、そう考えるようになったんです」
一人でも多くの一般消費者が「森tebaco」を購入し、障害者雇用や地域の森林資源の活かし方について考えるきっかけとなれば、わたしたちの社会はやさしい社会に近づきます。障害があってもなくても、地域の中で誇りをもって生き生きと仕事ができる、そんな社会を願って、プロジェクトは続きます。
(写真・文 有限会社グラム・デザイン)
2023年12月 追記:
「森tebaco」が、一般社団法人日本ウッドデザイン協会主催の「ウッドデザイン賞2023」において、最優秀賞である農林水産大臣賞を受賞!
社会福祉法人幸仁会(埼玉県深谷市、理事長田中初男)とNPO法人木育・木づかいネット(東京都中央区、理事長浅田茂裕)が共同で進めてきた林業×福祉連携プロジェクトと同プロジェクトによって開発された地域材製品「森tebaco」が、一般社団法人日本ウッドデザイン協会主催の「ウッドデザイン賞2023」において、最優秀賞である農林水産大臣賞を受賞しました。
今回のウッドデザイン賞選考では、林業、木材産業にも消費者の関心を向けるきっかけとなる作品を消費者の購買意欲をそそるクオリティ、優れたデザイン性で作り出した点、そして、今後、同様の取り組みを進める他の授産施設にとってのビジネスモデル、施設経営の良質なモデルとなりえるものであることが受賞理由とされました。
プレスリリース
『ウッドデザイン賞2023』最優秀賞をはじめ上位賞が決定!
~12月6日(水)に東京ビッグサイトで「表彰式」「展示」ほかを開催!~
試作品「森tebaco」に関するお問い合わせ
社会福祉法⼈幸仁会川本園
〒369-1105 埼玉県深谷市本田7080-8
電話番号 048-583-5908 / FAX番号 048-583-7277
メールアドレス kwmt@poppy.ocn.ne.jp
完成品「森tebaco」の時計 先行販売はこちらから
日本の森の木づかいショップ(運営:NPO法人木育・木づかいネット)
電話番号 080-4616-8654
メールアドレス info@mokukids.net