つくるルポ!

地域におもちゃ美術館をつくる!〜花巻おもちゃ美術館の挑戦


花巻おもちゃ美術館は、2016年惜しまれつつ閉店したマルカン百貨店の6Fにあった大食堂を復活させるプロジェクトと連動して小友木材店が立ち上げた民設・民営の施設です。 館内には岩手の県産材がふんだんに使われ、さわって遊んでは、なるほど!と花巻を知る事もできる楽しい仕掛けがいっぱいで、木工のつくりの良さ、職人仕事の美しさにも感動。 木育と他世代間交流を目指し、2023年には年間6万人の来館者を見込んでいるそう。
立ち上げから2023年まで館長を務めた小友木材の平野裕幸さんにお話を伺いました。

「木の変態」を自称し、木材のスペシャリストでもある館長の平野さん

―2020年の7月オープンということですが、コロナ禍での運営は大変だったのでは?

平野:大変でした。来館者数がどんどん減ってゆくなかで、コロナ禍だからこそできることをスタッフやボランティアの学芸員さんたちと企画して頑張ってきたんです。おかげさまで、今季は目標にしていた年間来館者数6万人を達成できそうです。

―全国に12を数えるおもちゃ美術館の中で、花巻おもちゃ美術館の特徴はどんなところですか?

1つ目は、〈食と遊びのコラボレーション〉をひとつのテーマに選んだことです。百貨店があったこのマルカンビルの6Fには昔から地域に愛される大食堂があります。マルカン百貨店の倒産に伴って閉店される予定だったのですが、なんとか残して欲しいという地域の声をうけて、小友木材の4代目社長を中心に資金を集め復活させることができました。今ではなんと年間30万人ものお客さんがいらっしゃいます。

そこで、マルカン大食堂にいらっしゃる親子が食事の帰りに2Fのおもちゃ美術館に寄って楽しめるような遊びをデザインしました。30万人の5分の1、年間6万人が来てくれるのを目標にして。マルカン大食堂の名物、十段ソフトクリームの積み木は大人もムキになって遊んでくれますし、大食堂にあるものと同じ人気メニューを盛り合わせることのできるコーナーもあります。畑から収穫したり、キッチンで包丁で切ったり、バーベキューしたり、子どもから大人まで色々な世代のお客さんがこの巨大なごっこ遊びを楽しめるようになっています。

2つ目は岩手の県産材を活かして地域の歴史や豊かな文化を遊びにして伝えていくということ。岩手は本当に多樹種で、木のデパートといってもいいくらいの地域です。私たちは木材店の強みを活かし、木の変態とも呼ばれる(笑)私が県内各地から全力でよりすぐりの材を集めています。

岩手県産の多様な樹種のタイル。平野さんから「これは何の木でしょう?」と樹種あてクイズがはじまる

こうして集めた県産材をふんだんに使い、遊びの中に花巻や岩手の歴史や文化を表現しています。宮沢賢治の銀河鉄道に乗ったりはもちろん、野菜の収穫ができるのは花巻で有名な「幸田の棚田」、「平庭高原」の白樺林で引っ付き虫を採ったり、木玉の「花巻温泉」にはいったり、そして岩手の山並みと「岩手山」から滑り台で降りていただくこともできたりと。岩手といえば椀子そばもよく知られていると思いますが、お椀のオセロも大人気です。

3つ目は、ここが地域の木材店による民設・民営だということを活かした、木育コンテンツの横展開です。美術館を運営してみるとすぐに、ここの木育コンテンツには、展示館の運営だけでなく、様々な活用ニーズがあることがわかりました。企業さんのキッズスペースや、人の集まる場所に木育ひろばをつくるなど、県内の様々な場所に〈木育〉を届けています。

花巻おもちゃ美術館を核に、木育ひろばを横展開

私たちは木材店であり、すぐ近くの本社には加工機もあってデザイナーも職人さんもいるので、木材の調達だけでなく、欲しいものは割と何でも作ることができます。つまり美術館に来たお客さんがここの展示を観て、自分のところの施設にも木育の遊具や展示がほしい、と思ったらご相談に応えられる体制があるんですね。

コロナ禍でGOTOトラベルってありましたよね。ある時、ひとつの宿から地域クーポンを使って来る来館者が多いのに気づいたんです。行ってみると、赤ちゃん同伴に優しいサービスを打ち出している宿だということが分かった。さっそく伺ってみたら、キッズスペースがあまり良くないんですね。カーペットが敷いてあって、壊れたアンパンマンのおもちゃが転がってるだけで。客層はうちと同じ年齢層ですから、「社長、木育広場をつくらせていただけませんか?」って持ちかけたんです。OKをいただいて、つくらせてもらった結果、相乗効果で花巻おもちゃ美術館への来館者数とその宿泊施設への宿泊客数、双方ともに増えて、メディアにも取り上げられました。そうした事例が広く知られるようになり、他の宿泊施設や企業さんなど、美術館を出て外へ、横に展開していったんです。いわゆるサテライト美術館というか、木育ひろばの横展開は県内20箇所以上になっています。

木育なら花巻おもちゃ美術館という評価が定着してきて、今度は岩手県からも森林公園の来場者が減っているということで相談を受けました。作られてから20年もそのままになっていて。それで、私たちはそれぞれの森林公園の展示を見直してみて、「遊び」がないことに気づき、その地域ならではの特徴を生かしながら、新しい木育ひろばを提案しました。地域の特徴を活かす、というのはおもちゃ美術館イズムともいえるかもしれません。また、せっかく作ったのに、一緒に遊び方をサポートする人がいないために、誰も遊んでくれない、ということが起きないよう、公園の指定管理者の仕事も引き受けることにしました。

美術館をささえるのは、みんなの熱い想い

私を含め小友木材のスタッフはもちろんですが、美術館を熱く支えてくれているのは、160名のボランティアの学芸員のみなさんです。例えば絵本の読み聞かせをしてくれる学芸員さんがいたり、糸鋸を使って工作をしてくれる学芸員さん、おもちゃの修理をしてくれる学芸員さんもいます。そこは東京おもちゃ美術館にならって、みんなが参加できる、みんなの居場所になるようにと考えています。中には学校の先生もいらして、美術の授業で生徒さんを連れてきてくれます。先生方もここで学芸員として木育を学び、それを学生に伝えてくれるというのも良い循環です。そして、クラウドファンディングで全国から支えてくださったみなさんもいます。

私は工務店に県産材を使ってもらうための仕事をしながら、長いこと岩手県におもちゃ美術館を創りたいと思っていました。だから東京おもちゃ美術館を視察してきた小友社長から、「花巻のマルカンにつくりたいんだけどどう思う?」と話がでたときには鳥肌が立ちましたよ。館長誰にする?と聞けば「はいはい!俺が俺が!」と立候補です。 この美術館の設立に全力を傾けていましたので、完成してしまうことが本当に寂しかったのを思い出します。
以前、震災復興住宅に県産材を使ってもらう仕事をしていたことがありますが、その時お客様にとって地域材利用というのは優先順位が低いんだな、ということを実感しました。高度成長期を生き抜いてきた大人世代に訴えても駄目なのかもしれないと。だから、私は木育が大切だと考えていて、より多くの子どもたちが、花巻おもちゃ美術館にきて、地域の木に触れ、学芸員のお兄さんお姉さん一緒に遊んで楽しい思い出を育んで欲しい、と思っています。 高校生くらいになって、「あれは宮沢賢治の銀河鉄道だったのか」、とか「わんこそば、岩手の名物だよね」、とか思い出して、やがて「住むなら地域の木材でつくる家だな」と思うような大人になってくれたらいいですよね。

花巻おもちゃ美術館

住所 〒025-0087 岩手県花巻市上町6−2
電話・FAX TEL:080-9257-7987 FAX:0198-23-4333
営業時間 10:00~16:00(最終入館は15:30まで)
※当日のチケットで再入場可
定休日 毎週水曜日・年末年始