つくるルポ!

里山の植物で都心の部屋に森をつくる〜森を祝う「みんなの夏至祭」の取り組み

森を祝う「みんなの夏至祭」は、街とヤマをつなぐ取り組みのひとつで、「私の森.jp」の編集部のスタッフが中心となり、2015年から行われている夏至のイベントです。ヤマ側からは、岐阜の杉玉製造販売「杉玉の高林」さんに協力をいただきながら毎年続いており、2020年には、ウッドデザイン賞を受賞しました。

イベントは2部構成になっています。第1部はヤマの植物で森をつくる室内装飾のワークショップ、第2部は出来上がった森林空間の中で朗読や音楽などを楽しむ時間です。

中山間地の森からスギを中心とした青々と茂る植物を送ってもらい、みんなで都心の室内を装飾し、森を出現させる。五感を開き、朗読や音楽を聴いたり、語り合ったりしながら、森林や林業について思いを馳せる時間を共有します。都心の室内に、出現するその日限りの森空間。それはとても美しく癒やされる取り組みで、ぜひより多くの人に拡がってしてほしいと願い、8年目になる2023年の「みんなの夏至祭」をご紹介します。

呼びかけ人代表の赤池円さんにお話を伺いました。

あまり森に行かない人にも、森の心地よさを感じてもらうために

森を祝う「みんなの夏至祭」は、林業地で日常的に捨てられているスギの枝葉を使って中山間地域と街をつなぎ、森と森に関わる人びとへの感謝を表現したい。都市化されてしまった私たちの五感を「森」へ向けて開放し、同じ想いのある人たちをつなぐような「お祭り」をしたい。そう願ってはじまりました。私たちはこの小さな夏至祭を通じて、都市部に住まう人たちも中山間地の森林や林業について思いを馳せるきっかけになったら良い、日本の様々な場所に広がってほしいと考えています。

「みんなの夏至祭」では、初年度から毎年必ず行ってきたことが4つあります。これはどの地域から参加される方も同じように実行してくださると楽しいな、と願ってのこと。あとは自由演技です。

  • 森から杉などヤマの植物を取り寄せて、室内を森のように飾る。
  • 森の「葉」を使った「夏至寿し(ごはん)」をいただく
  • ロウソクやソーラー・ランタンなど、自然エネルギーの明りを灯す
  • そして、みんなで太陽と森を祝う

杉枝を天井から吊って、室内に森を創出させる

まずは第一部、「夏至飾りのオンライン・ワークショップ」です。
里山の植物を手に入れるのが難しい人のために私たちは、杉玉の高林さん(岐阜県下呂市)に夏至飾り材料セットをオンラインショップで購入できるようにしてもらっています。 オンライン参加者の中にはご自分の活動領域の森で材料を調達して参加した方もいるし、このセットを購入してご参加した方もいます。近くに森がない人も、私たちと一緒に森に思いを返すことができるのを、オンライン越しに観るのはとても嬉しいことでした。今年も摘みたての香り高い朴葉がはいっていて、ご自分で夏至ずし(朴葉寿司)を作った方もいたようです。(杉以外の植物はおまかせとなります。この辺も中山間地とつながる楽しみの一つ)

杉玉の高林 webサイト sugidama-takabayashi.com

私の森.jp編集部があるグラム・デザインが2023年のリアル会場。杉玉の高林さんから送っていただいた、スギ・ヒカゲノカズラなどの枝葉を使った、夏至の装飾がはじまります。

まずは会場の参加者全員でリースワイヤーと結束バンドでスギ枝を繋げて大きなスワッグをつくります。適当な長さのスワッグを何本かつくったら、重さがうまく分散するように気をつけながら、天井に取り付けていきます。小さなチームに別れて、どんな空間にしたいかをそれぞれ相談しながら、あっちだこっちだと、みんなで思う場所を探してゆくうちに、場が盛り上がっていくのがわかります。

 

毎年ご参加いただいているみなさんも、今年初めて参加されてご自宅で夏至飾りを作られた方々も、思い思いの小さな森を作って楽しんでくださっているようでした。スギは花材としても持ちがよく、水を入れた花瓶にドサッといれて飾っておいても、1ヶ月ほど緑を保ちます。林業地などにいくと、大量のスギ枝が捨てられていますので、機会があれば、ぜひもらって帰って飾ってみてください。スギの香りは鎮静作用があるだけでなく、消臭効果もあります。とても良い香りなのに、その部屋にしばらくいると忘れてしまうほど、自然な香りでもあります。香りが弱まってきたら、葉をハサミで刻むと、また新鮮な香りがたつので、長く楽しむことができます。

スギの香りが降る森の中で、対話する夕暮れ

第二部では、琉球琴の演奏、朗読、今年のサブテーマ「深まる、植物愛!」にちなんで参加者のみなさんが「一人一植物」を選び、その植物への思いを語りました。

牧野富太郎のテキストを朗読で聴く

7年前の夏至祭スタートをきっかけに、人前で朗読を行うことを始めたという、編集部スタッフでライターでもある高階經啓(たかしなつねひろ)さん。
今年は『牧野富太郎自叙伝』第二部 混混録から『わが生い立ち』『植物に感謝せよ』『妻の死と「すえこざさ」の命名』の3節を選び、読んでくれました。牧野博士、ユニークなお人柄です。

私はかつて「帝国大学新聞」にこんな事を書いた事があります。それはすなわち「私は植物の愛人としてこの世に生まれ来たように感じます。あるいは草木の精かも知れんと自分で自分を疑います。ハハハハ、私は飯よりも女よりも好きなものは植物ですが、しかしその好きになった動機というものは実のところそこに何にもありません。つまり生まれながらに好きであったのです。

牧野富太郎自叙伝 第二部 混混録より『わが生い立ち』より

続きは青空文庫からどうぞ。
牧野富太郎自叙伝 第二部 混混録|青空文庫

「1人1植物」それぞれが想いを寄せる植物のおはなし

最後は、参加者それぞれが心に思い浮かぶ植物について話す「1人1植物」のトークリレーを行いました。ルールは、事前に配布した「植物採取ラベル」とその植物の写真を見せながら、一人2分ほどの持ち時間で話をする、というもの。「植物採取ラベル」には、その植物の呼び名と、学名や採取地(思い出の地でも可)を記載します。その植物について話すことが、正式な学名や生態について学ぶ機会もつくります。オンライン参加のみなさんにもメールで事前に告知をして、同じルールで参加いただきました。


それぞれの思う植物をめぐる話は驚くほど多様で興味深く、改めて私たちの暮らしに植物たちがどれだけの存在感をもってきたのか!と思い知りました。これは来年も開催したいね、と盛り上がり、2023年の夏至祭が終了となりました。
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【紹介された植物】
/オオバクロモジ/和梨/ミルテ(ギンバイカ)/クスノキ/月桃(ゲットウ)/イネ/八重咲ドクダミ/烏瓜(カラスウリ)/さくらんぼ/スダチ/浦島草(ウラシマソウ)/紫陽花/ムラサキカタバミ/スギ
などなど。


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